録音ロケ

伊是名の思い出


*夜の晴れ間にあらわれた13夜月
伊是名を明日出ると決めた日、宿のご主人カズさんにそのことを伝えた。
カズさんは、「じゃあ今日は飲みましょう」と言ってくれた。
荷造りをし、島をもう一度ひとまわりし、港のターミナルに行き
ネットをつないでもう一度台風の状況を見る。やっぱり沖繩に
まともに向ってきている。このままでは18日のコンサートまでに
帰れなくなってしまう。やはり明日帰ろう。
島で世話になった人達に挨拶をしてまわり、となりのマーケットで
ビールを買って宿に戻った。カズさんはまだ圭一さんと一緒に
ビーチサンダル彫刻に熱中していた。ビーチサンダルに名前を彫ったり
模様を彫ったりしているのだ。
「もうすぐ終わるから飲みましょう」
「いいよ。部屋にいるから声かけて」
部屋に戻り、テラスのイスに腰をかけて、海をながめながら
ビールを飲んだ。伊是名に来てから何度も繰り返したことだ。
このテラスで飲むのが大好きだった。これもしばらく出来ないと
思うと胸がいたかった。
1缶飲み終わり、下の様子を見に降りたら、食堂ではカズさんの奥さん、
圭一さん、カズさんの友人ご夫婦が集まって、ビールを飲みながら談笑していた。
「お〜、ジョーさん、調度いい。さあ飲みましょう。」
料理自慢のカズさんの手料理をつまみながら飲んだ。最初はビールで乾杯。
その後カズさんが「緑」という新潟のお酒を出してきた。このお酒の
送り主は、僕をカズさんに紹介してくれた大和のヘアアーティスト、関谷さんだ。
島の人はよく飲む。一升瓶はアッと言う間に空になった。次は濁り酒だ。
これも本州から送られてきたもののようだ。これもアッサリ完飲。
最後はやっぱり島酒(泡盛)だ。楽しい時間はアッという間に過ぎて行く。

圭一さんが、「ジョーさん、これプレゼントするよ。持って帰って。」
それは圭一さんが今日彫っていたビーチサンダルだ。見事な模様が
彫られている。ハイビスカスの花びらまでが綺麗に彫られている。
「これもらっても、もったいなくてはけないよ。」
「いいです、いいです。ばんばんはいてくださいよ。」
「じゃあ、これうちの壁にかけて飾っておくよ。ありがとう!」
お礼に「NSO」のCDをあげた。
そして一行は、まだ飲むぞ!とばかりカラオケへと出かけていくのだ。
島の人達は暖かい。こちらが心を開くと誰もが暖かく迎えてくれる。
その心に触れると痛めていた心も癒されていく。
きっとまた来よう。伊是名島は本当に美しい島だ。

Back To TOKYO


昨日東京に戻った。天気図を見ると、出発予定の16日には那覇空港が
暴風域に入る可能性が高く、今回の台風の進路の遅さから考えると
18日のライブまでに戻れない可能性が高かったので、やむなく
東京に戻ることにした。この朝崎郁恵さんとの共演だけはなんとしても
出たかったし、これに穴を空けるわけにはいかない。
まさに断腸の思いでの決断だった。
僕が狙っていたのは15日夜から16日明け方にかけての満月の
夜の海を録ることだった。もくろみでは、台風が通り過ぎた後の
静かな満月の夜の海を録りたかったのだが、台風13号の驚くほど
遅い動きはのため、満月の夜も晴れることはないことが判った。
それどころが、台風は進路を東に変え、まともにこちらに向って
来る様子だった。
目的を果たせず島を出るのは本当に残念だが、まあしょうがない。
きっとまた島に来いということだろう。
そんなわけで、無事、東京に戻ってきました。

今朝の台風状況

昨夜も強い風が吹き続けた。強い雨が降り続き、カミナリが落ち続けた。
今朝も状況はあまり変わっておらず、依然風は強く、雨もざあざあ
降っている。島の場合こうなると他にやることがなく、部屋でじっと
しているしかない。
今回のこの台風13号は進む速度が遅いため、まだしばらくこういう
状態が続きそうだ。とほほ。。。
マイクはとても風に弱いので、暴風雨をうまく録るのは至難の技だ。
しかもそれを録ったからといって、それを人に聞かせて気持ち良いと
思ってもらえるとは思わないので、録らない。
人が聞いて気持ちいいものを録る、というのが自分の基本だから。
そんなわけで、暴風雨の音を期待されている方には申し訳ないが、
それは録らないと思います。(たぶん)
実は僕が狙っているものは外にあって、まあ言わばそれのために
島にとどまっているわけだが、それは録れた時点でお教えしよう。
というのは、今の状況だとそれすらキビシイかもしれないので。
まあ、これも自分の運というか巡り合わせなので、録れないなら
録れないで、また島に来いということなのだろう。

台風

taifu_01.jpg
*今朝の仲田港の海。こんなに波が高いのは来て以来初めて。
今朝の島内放送で、フェリーの運航が通常通りとアナウンスされた。
昨夜は一晩中強い風が吹き荒れていたので、まさか運行されるとは
思っていなかったので、心が揺れた。
「帰ろうかな?」
台風の進行が遅いため、ここ数日は台風の影響を受けるだろう。
そうすると、なかなか音を録るのは難しく、それだったら早く
帰った方がいいんじゃないだろうか、と思い初めていたのだ。
でもそれは表面的な理由であって、自分の中に不安と里心が
同時に芽生えてきているのを感じていた。
ラップトップを抱えて、港のターミナルに向った。
島の中でネットに繋がるのはターミナルビルの中だけなので、
一日に1回か2回ここに通うのが日課なのだ。
港の職員の人をつかまえて、本当に運行されるのか確認した。
フェリーの予約状況を確認した。乗れる。帰ろう。。。かな?
迷う。どうしよう。迷う。
那覇から東京に向う飛行機の予約状況を調べてみた。
空席はある。どうしよう。。。
もう一度、職員の人と話し、明日以降の運行状況も聞いてみる。
基本は通常通りの運行だそうだ。少し気が楽になった。
今日乗り過ごすと明日から止まってしまうのではないかという
不安はなくなった。
このままいても音は録れないかもしれない。でも、この島で
台風を迎えるなどという経験はなかなか狙っても出来ない
ことだろう。こういう時にしか見えないものがあるかもしれない。
こういう時にしか録れない音もあるかもしれない。
このまま島を出たのでは悔いが残る。
よし居よう。
そう決めた。
そんなわけで、予定通り、16日まで島にいます。

本日の一枚(その2)


朝7時。シラサギ展望台から撮ったマッテラの浜。
右奥に見えるのは「海ギタラ」。
「ギタラ」というのは岩、という意味だそうだ。
この「海ギタラ」の陸側の正面に対となる
「陸ギタラ」(アギギタラ)がある。
水平線に沿って見えるのは無人島の屋那覇島。
浜を取り囲むサンゴ礁が美しい。

本日の一枚


昨日、夕方から伊是名ビーチと勢理客(じっちゃく)の
間くらいにある小さい浜で夕日を見に行った。
波の音があまりにも美しかったのでフリッツで録った。
夕日を眺めるフリッツの哲学的な後ろ姿だ。

伊是名島に来た


伊是名島は美しい。島全体に穏やかな気があふれている。
鳥達が里のすぐそばで楽しそうに生きている。
海の美しさは特別だ。穏やかで、豊かな幸をたたえている様子が
良く分かる。島全体をサンゴ礁が取り囲み、外海の荒い波は
すべてサンゴ礁が受け止めてくれるので、浜は湖のように
穏やかだ。
この島で生まれ育った高齢の方は言う。
「昔は街灯もテレビも無かったので、子供の頃、月の出ていない夜は
本島に真っ暗で、日が落ちたら外に出ることはなかった。
波の音だけが聞こえてきて、島全体が波に揺られているようだった。」
朝は宿の前にあるガジュマルの木に巣を作る鳥達が楽しそうに
さえずる。鳥達は人をあまり怖がっていないようで、人と鳥の
距離がとても近い。すぐ側の木にとまっていて、側によっていくと
こっちをじっと見ながら逃げる様子もない。そしてじっと海を
見ながら、時折仲間達に何かを知らせるように鳴く。仲間は返事する。
またそれに応える。そんなやりとりが延々続く。
人はみな穏やかで優しい。挨拶すると必ず挨拶が返ってくる。
友人や知り合いだからではない。人同士だからだ。
早朝、車ですれ違う時も会釈するようにしている。それが島の
外からやってきた人間の礼儀だと思っている。すると必ず
笑顔が浮かび、「よしよし、それでよろしい」と言っているかの
ように、うなずかれる。島の人に受け入れてもらったと思える瞬間だ。
島民およそ800人。
本当に美しく平和な場所だ。

綾町録音・最後の日

今朝も大森岳の森に入った。宿を出たのが午前3時すぎ。現場に着いたのは
4時前頃だったろうか。昨日お天気が良かったせいか、今日は落石も倒木も
なく、スムーズに林道を登ることが出来た。途中、5,6頭の鹿の家族や、
車に驚いて走り出すウサギを見る。さて、お気に入りのポイントに車を
停め、エンジンを切って耳を澄ますと、、、本当に静か。驚くほど。
あれ〜? ミミズクもいないな、、、それどころかなぁ〜〜んにも鳴いていない。
辛うじて所々で虫が鳴いているくらいだ。あたりはまだ真っ暗。
ふぅ〜む、このあたりのこの季節の夜は本当に静かなんだな、と思いつつ、
一番鳥が鳴きはじめる前にと、セッティングを始めたらアクシデント。
レコーダーの電源が入らない。電池を入れ替えたりひっぱたいたりしたが、
いっこうに立ち上がる気配がない。
すぐにサブのレコーダーとして持ってきていたSONY のPCM-D50に切り替える。
うっかりズボラをかまして、キャノン入力アダプタを持ってきていなかったので、
マイクはOKM-II で録ることにした。これがなんと身軽で自由なことか!
ポジションの移動も楽々。改めてこのシステムの最大の利点であるフットワーク
の軽さを痛感した。
最後には面白がって、歩き回ったり頭を左右にパンしてみたりして遊んだ。
いつものシステムとの違いは、自分の耳にマイクを入れているため、ヘッドフォンで
モニター出来ないこと。実際の耳で聴いた音と、録音される音には大きな
違いがある。それを確認しながら録るためのモニターなのだが、それが出来ない。
その違いを想像しながら録るしかないわけだ。
もうひとつの違いは、呼吸、咳、かすかな衣ズレすらひろってしまうので、
完全に自分の存在を消すくらいの状態でいなければならない。
でもこれはいつものことなので、それほど苦ではなかった。
今日の綾の森は本当に面白かった。綾の森は野鳥の宝庫と言って良い。
ありとあらゆる日本の野鳥達が生息している。その個体数も、ものすごく豊富だ。
それらが順番に鳴きはじめる様子は本当に楽しい景色だった。
そうこうしているうちに、ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。
ちょうど頃合いも良いので山を降りることにした。
里に降りた頃にはものすごい雨になっていた。まるで綾町での録音の終わりを
待っていてくれたみたいに。
今回の作品は近々に発表しますので、どうかお楽しみに!