明治神宮録音日記

明治神宮録音日記・その1

5月14日、正確には15日の午前3時、明治神宮北門より入る。昨日より少し肌寒い。ジーパンの下にはヒートテック、上は防寒用のインナー入りのウィンドブレーカーを着てきた。春とは言え、長時間外にいるのはやはり冷えるのだ。

今日の機材はカメラはLumix GH1。かなり軽量のデジイチだ。今日は半分ロケハン的な意味もあるので、機動性を重視して、いつものノイマンのバイノーラルマイクはお留守番。代わりに、OKM-II のバイノーラルマイクとソニーPCM-D50という超軽量コンビ。でもその実力はなかなかのもだ。

北門から参道に入らず、右に折れて宝物殿の方に向かう。今夜は新月。真っ暗だ。点々と光りを灯す灯籠が美しい。宝物殿前の広場に出る。真っ暗とは言え、空が白いので足下は良く見える。広場を抜け、本殿に向う道を行く。夜の景色は前回に結構撮ったので、今日はまっすぐ御苑に向う。
まず先に清正井に行ってみる。静かだ。今日は特に静かだ。早速録音を始める。水音以外にはまったく何も聞こえない。今日の水音はやや細くて柔らかい。水量によって毎回音が違うように思う。

その後、御苑の中を歩き回り、録音スポットを探す。ここに夜来るのは3度目だが、いまだに自分にとってここだ、という場所は見つかっていない。というのも、都会の中にある森なので、外の音がどうしても入ってくる。東側は明治通、北側は首都高を通る車の音が聞こえる。この時間帯の交通量は少ないのだが、時折通るバイクの音が凄まじい。とほほ。

御苑の東側は野鳥が多い。しかし道路に近い。また4時半頃には山手線が動き始める。西側はカラスの縄張りがあり、それはそれでうるさい。その真ん中あたりがいいのだろうと思い、場所を探す。南池の前は空間が開けていて、音が反響してとても美しい音が録れるのだが、同時に音の通りが良い分、外からの音も良く通って来る。今夜は順路の清正井に近い位置で朝を待つことにした。

時計を見ると4時10分前。4時10〜15分頃には一番鳥が鳴き始めるはず。じっと朝を待つ。相変わらずカラスは早起きですでに鳴き始めている。今は繁殖期なので特によく鳴く。カラスにはなんの恨みもないが、カラスの声は好きではない。色気がない。けたたましい。そんな風にしか聞こえない。カラス、ごめん。

4時15分頃、一番鳥が鳴いた。さあ録音開始。だがカラスがあまりにもうるさい。10分ほど録ったのだがあまり美しい音だとは思えなかったので、早々に切り上げて南池の前に移動する。相変わらずカラスがうるさい。まあ、これもありのままの景色だし、と割り切って再び録音開始。同時にビデオも回す。写真も何枚か撮った。朝のピンと張りつめた空気が心地良い。それから御苑東側の茂みの中に移動。野鳥が多い。みんなそろそろ起き始める。録音開始。

10分ほど経過すると、「まもなく1番線に電車が参ります。・・・・」のアナウンス。山手線の始発だ。ついでだからここから聞こえる山手線の音も録っちゃえ。森の中から聞こえるJRのホームのアナウンスはなかなかシュールだ。電車が来る音。アナウンス。電車が動き出す音。森の鳥達の声。都会の景色だな。

それから南池前に移動。空が明るくなってきた。鴨の夫婦が登場。仲良くエサを探している。何度も池に潜る。鴨の潜水時間はとてつもなく長い。初めて知った。背中が真っ青な綺麗なカワセミが飛んできた。ビデオを回す。池のほとりの枝に止まり、そこから池へとダイブを繰り返す。もっと大きな望遠が欲しくなった。

朝5時。本殿で打ち鳴らされる太鼓の音がうっすらと聞こえてくる。もちろん録音。本殿の太鼓がある場所からはずいぶん離れているはずなのだが、音はよく聞こえる。なんだか荘厳な雰囲気だ。この朝の光が差し始める。今日は快晴だ。森の木々に日の光が反射して美しい。池のまわりではいろんな鳥達が鳴き始める。お天気の良い朝は鳥達はよく鳴く。曇っているとあまり鳴かない。小雨に日にはほとんど鳴かない。鳥だっていいお天気が好きなのだ。

たっぷり録音し、撮影の出来たので予定よりも早めに御苑を出る。本当はもっと録りたかったのだが、欲張ってはいけない。これは自然を相手に仕事をするときの鉄則だ。欲張ってはいけない。その日にもらえる分だけもらって帰ればいいのだ。

*この日録音した音はYouTubeにアップしています。

*「明治神宮鎮座90周年記念」DVDは、今年の11月に発売予定。現在、制作を支援してくださる方々の協賛を募集しています。詳細はこちらまでご連絡ください。info@joeokuda.com