そのろく

映像の方は素晴らしいものがどんどん撮れていくのだが、音はというとなかなか
録れない。音を録るときは観光客のいない時間帯でないと無理なのだ。
マイクは何百メートルも先の話し声まで拾ってしまうことがあるので、暗いうちに
出発して、明け方頃に録るのが好きだ。
夜の世界から朝の世界に変わっていく、そのグラデュエーションのような時間帯が
最も好きだ。
今日は撮影のロケハンのつもりだったので、どうせ音は録れないだろうと思いつつ、
映像を撮るたびに、録音もしてみた。やはり静寂感を録りたい森などは無理だった。
せせらぎは登山道から離れればなんとか録れた。まあ今日は映像中心でいいだろうと
割り切った。
yaku_mori_03.jpg
太鼓岩への分かれ道の手前まで行き、そして引き返すことにした。
戻りながらまた撮った。帰りは少し遠回りになる原生林歩道から帰ることにした。
これがさらに後で我々を苦しめることになる。
帰り道にはせせらぎがたくさんあった。せせらぎは是非撮りたいもののひとつだったで、
たくさん撮った。なるべく長い時間、フレームを動かさないで写真のように撮って欲しい
と頼んで撮った。ビデオだが写真のような動きの少ない絵にしたかったのだ。
人間は目から入る情報量が増えると、意識が目の方にばかりいき、聴かなくなるからだ。
僕は音を聴いて欲しいのだ。音がメインといってもいい。そんな映像作品にしたかった
のだ。音と映像が同じくらいの比重を持つ、そんな作品にしたかった。
だから、目から入る情報量をコントロールするために、なるべく動きのない映像を
撮りたかった。
撮影班は僕の意志をよく理解してくれて、普通のビデオカメラマンが、やらなければ
気が収まらないくらい必ずやる、パンやズームインズームアウト、といった絵の動きを
極力避けた映像を撮ってくれた。
さてそろそろ帰ろうか、と機材をかたずけ、ザックに仕舞い、山道を帰るのだが、
この遠回りの道、下りだけでは無かった。恐ろしいほどアップダウンがキツイのだ。
いつまでたっても里にたどり着けない。そうこうしているうちにだんだん日が傾いて
くる。時計を見る。地図を見る。
「おい、、、やばいぞ・・・」
そんなことを言ってるうちに疲労が限界に近づいてくる。特に撮影班の疲労は激しい。
体力では誰にもひけをとらないはずのもりもっちゃんが、めちゃくちゃにバテている。
小坂は口がきけなくなってきている。僕のくだらない冗談にも笑えなくなってきている。
僕は僕で、身体が山に慣れてきたとはいえ、辛いにかわりはない。
足が痛い。荷物が肩に食い込む。少し歩いては休み、休んでは歩く。ただただ
これを繰り返すだけだ。
行き道では誰よりも元気だった小坂が完全にへばりはじめた。もりもっちゃんの
顔つきがかわってきた。もう限界だ。それでも歩くしか他に選択肢はない。
ただただ歩く。谷を降りる。また登る。その繰り返しだ。
そして、やっと登山口が見えてきた!
やった〜〜!!
yaku_albm_01.jpg
人間、不思議なもので、そうなるとまたどこからともなく、余分な元気がわいてくる。
元気のリザーブタンクがあるんだね。そのタンクの残り少ない元気をふりしぼって
登山口まで戻った。
もし、今までの人生で辛かったことのランキングを作るとしたら、間違いなく3位には
軽く入るだろうと思うくらい、辛かった。
しかし、美しいものを手に入れた喜びはその何十倍も大きい。

2 Comments

  1. mai

    なんだかLord of the Ringを思い出させるような木です。でも本当に行ってみたなぁ!
    おじさま軍団がんばってますね。ステキです!!

    Reply
  2. Joe

    mai ちゃ〜ん。またきてくれたのね〜〜
    ありがとう!
    mai ちゃんのブログもいつも見せてもらってるよ。
    こっちからもリンクはるね。

    Reply

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